本研究期間の最終年度である本年度は、交付申請書に記した実施計画に基づいて、これまでの研究の成果を総合的にとりまとめるとともに、そうした成果について国内外で情報発信をしていくことに、重点的に取り組んだ。具体的には、主に以下の二つの研究成果が挙げられる。 第一に、昨年度に開催されたシンポジウム「ユビキタス時代の情報法における基底的価値とエンフォースメント」の内容が本年度に学会誌に掲載されたことに加えて、同シンポジウムの個別報告の中で指摘した、スマート・サーベイランス環境におけるプライバシーをめぐる問題状況の把握及びそこでの対抗利益間の調整に向けて必要となる視点とアプローチについて、アメリカでの講演の機会を得て英語で発表を行った(後掲の研究発表欄の「スマート・サーベイランス環境におけるプライヴァシー価値の正当化と組込み」等を参照)。 第二に、近年の情報環境の発達の下で、いわゆる「事前抑制」の法理が、名誉毀損・プライバシー侵害の救済手段としての裁判所の事前差止めの合憲性に対して有する含意を、日英米の比較制度分析を通じて明らかにした。そこに見出せるのは、上記の第一の研究成果を含む本研究期間における一連の成果に通底する知見、すなわち、特にインターネットといった新たな情報通信技術がかかわる文脈における表現の自由やプライバシー等をめぐる問題解決には、法規制・自主規制・技術的コントロール・教育的措置等の複数の対応措置を柔軟かつ実効的に組み合せて講じていくアプローチが有効となるとともに、そこでの対抗利益間の調整を図るにあたって基底的な価値原理の考察を深めていく必要があること、である(後掲の研究発表欄の「ネット時代の名誉毀損・プライバシー侵害と『事前抑制』」等を参照)。
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