研究概要 |
平成22年度は,(1)医学研究に関わる生命倫理原則の骨格をなす生命倫理4原則(3原則といわれることも多い)の由来と形成を跡づける作業をする機会を得,ニュルンベルク綱領からベルモント・レポートを経て近年の動向までを改めて辿ることができた。また,(2)きわめて現実的な問題として,アメリカで代理母から生まれた児のわが国における身分に関わる著明な2事例に取組み,事件の要点を把握し,個々の事例の妥当な処理と当該処理の先例としての機能との困難な関係を痛感した。代理母については,契約による確実性の担保に法的脆弱性があることを指摘する自説が妥当と考えているが,渡航移植と同様に,海外での実施状況を睨むと対応が難しい。(3)以前から検討を続けている人体試料と診療情報の研究利用に関する包括同意に関して,その妥当性を肯定した上,研究利用状況についての継続的な情報開示と倫理委員会による監督を求める自説の推敲を重ねている。今年度は,8月にクロアチアで開かれた世界医事法会議で自説を発表する機会を得た。批判も受けたが,賛意を示してくれる参加者がかなりいたことが嬉しかった(23年度に関連の英文原稿を書くことを予定)。情報開示の方法としてウェブサイトの利用が便利であるが,情報の詳細さに応じて層別化することの必要性を認識した。(4)臓器移植法の改正に際して,昨年度から今年度にかけて厚労省の「臓器提供に係る意思表示・小児からの臓器提供等に関する作業班」で運用指針策定の裏方の仕事に参画した。概ね,ただ一人の少数意見を述べる辛い立場であった。しかし,社会全体として,脳死問題をめぐる賛否が分かれる中,自説をおいて,なるべく多数の人の希望に対応可能な体制を求める意見を述べたことは無駄ではなかったと考えている。今後は,生殖補助医療や研究倫理指針についてしたのと同様に自らの公的発言を論稿で説明する作業を進めたい。
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