本研究は、がんに罹患した患者をめぐって生じる医事法上の諸問題に関して、告知・治療法の選択・末期状態におけるケアのあり方、という三つの局面から分析を加えるものであり、本年度は全三年計画の二年目にあたる。告知に関して、近年のがんの治療成績の向上に伴って、がん告知の割合は進んでおり、その告知のあり方を考えることも、従来の枠組みとは異なるものが必要であることが認識された。現代医療の水準で、患者の状態が十分に治癒が望めるものであるとき、告知をためらう理由は存しないと一応いいうるであろう。この点において「告知・不告知」の二者選択ではなく、患者の個性・人生観と病態に即した告知のあり方に注目すべきであり、その点で現状のインフォームド・コンセントから、それを意識しつつ医療関係者の役割に配慮した「共同意思決定」の方面における検討が重要であると認識され、それを一歩進める研究を行った。治療法の選択に関しては、米国の資料を収集してその分析を継続しているほか、国立衛生研究所(NIH)を訪問し、そのスタッフからがん対策の現状等についての情報提供を得たほか、米国大学の医事法研究者と医事法の方法論に関連する議論をつうじて、これらの問題に関するアメリカの状況についての理解を深めた。末期状態におけるケアのあり方、についても、日本の資料の収集作業を継続したほか、医療関係者を交えた研究会において余命告知に関する現状を報告し、意見交換に努めた。この問題については、問題設定が治療成績の向上と相反する部分が存することが自覚され、サバイバーとの関係を再考することが今後の課題として示された。来年度は、上記の実績を基礎として、当初の研究目的であるがん患者の法的保護のあり方のモデルを構築するための作業を進める。なお本研究の成果の一部は来年度4月末出版予定の著書に反映されている。
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