本研究は、がん患者に生じる医事法上の諸問題を検討する研究である。本年度も、がんへの政策についての国内外の文献・資料の分析・検討と、医事法一般論に通じる過去の研究成果(手嶋「アメリカにおける『診療契約論』について」(2010)、同「医療における共同意思決定について」(2011))の延長から特定の疾病に対峙する際の法的対応への接続を通じ、課題の総まとめ作業を継続した。前者のうち日本国内の問題は、がん対策基本法の施行後の変化と課題に関して論じられている議論の情報収集、日本国外の問題は、特に欧米諸国が公表している政府・政府機関の各種報告書を収集・要約することで日本国との課題設定の違い・解決に関するアプローチの差等を比較し、今後の方向性を示唆する視点を得ることを試みた。後者は、かつて死に至る病の代名詞の疾病が患者に与える負荷の固有性を相対的にとらえ、法的通有性の有無を吟味し、日本のように、医療の社会的な側面が重要な地域では、患者個人の要望がどのような形で医療の実施場面にまで還元されるのか、その過程と方法を法的課題という観点から検討した。本研究では、前者・後者を有機的に結合させることを意識的に展開し、医事法の持つ固有性と一般性とをつなげる方法論を見通すことも併せて考慮に入れた。本研究の成果は、医事法に関する概説書の改版に際し、後者は最高裁判例評釈にそれぞれ反映させた。がんをめぐる社会的・医学的状況は非常に速いスピードで変化しており、日本での高度高齢化社会の進展は、がんに罹患する患者数・国民の割合を飛躍的に増大させ高齢者医療の自己決定の問題の重要度を増している。これについての日本の議論は不十分であることが、本研究課題を通じて明らかになったと考えている。平成23年度内での公表には至らなかったが、この点を検討した論文を平成24年度の早い段階で公表予定である。
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