計画初年度である平成21年度では、調査・検討すべき資料の収集および位置付けのための周辺調査を重点的におこなった。とりわけ、遺伝診断法Gendiagnostikgesetzが遺伝診断の科学的な水準の確保にかかる規律にとどまらず、それが社会で実際に用いられる場面として医療関係・親子関係・保険契約関係・労働関係を具体的に挙げて規律しているため、それぞれの法分野において遺伝診断がいかなる意味をもつのか、そのためにいかなる規律が必要とされているのか、についての検討が不可欠であることが明らかとなった。そして、連邦議会調査委員会「現代医療における法と倫理」の最終報告書(2002年)、国家倫理評議会の報告書「採用時検査の際の予測的健康情報提供」(2005年)、そしてドイツ生命科学倫理情報の報告書「予測的遺伝検査の手続」(2006年)について、この観点から位置づけて分析する必要があることも判明した。今年度の中心課題である立法過程の調査・検討にあたっては、この観点を生かしていく。もっとも、報告書などの資料は多いものの、現在までの調査で登場した論点は、プライヴァシー保護や差別的取り扱いの禁止など、比較的単純な問題にとどまる。そのため、今年度の調査では、さらに複雑な問題点がないかを精査する必要性がある。 また、ドイツ連邦医師会の指針については、遺伝診断法が診断の実施を医師に限定していることから、綿密な検討を加える必要があることがわかった。 なお、本研究の主要目的である親子関係における遺伝診断の意義については、民事訴訟法の証拠法分野に関する基礎的検討を含めて、最終年度の検討課題であるが、2007年2月13日の連邦憲法裁判所の判決を契機として民法に導入されたDNA鑑定のための試料請求権(1598a条)をめぐる議論については、立法資料を収集し、親子という身分関係の有無とは分離して遺伝的事実の解明を認めたことの意義を含め、分析をおこなった。
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