計画年度の2年目である平成22年度では、調査・検討すべき資料を整理して、具体的な分析方法の検討をおこなった。連邦法である遺伝診断法にせよ、ドイツ連邦医師会の指針にせよ、遺伝診断の科学的な水準の確保にかかる規律にとどまっていることが、これまでの検討で判明した。また、一律に遺伝情報の法的意義を検討するよりも、個々の分野における遺伝情報の持つ意義を明らかにした上で、遺伝診断の利用にどのような意義が認められるか、を分析することにより、実益のある議論が可能となることも、明らかとなった。以上から、遺伝診断の法的問題は、当該技術の用いられる具体的場面に即して検討する必要があることになる。そこで、本年度は、主に実親子法において遺伝的事実がいかなる意義を有するか、という問題と関連させて、遺伝診断の利用が実親子法にいかなる意味を持つかを検討した。とりわけ、ドイツは近時の民法改正によって、遺伝検査のための試料の採取に対する同意を求める権利を条文化している(ドイツ民法1598 a条)。これは、事故の遺伝的出自を知る権利に関する、1980年代末から1990年代にかけての連邦憲法裁判所の立場と立法府の考えのズレが、1998年の実親子法改正によっても解消されず、2000年代にまで持ち越されていることを示すものである。その意味では、遺伝診断という技術を実親子法がどう受け止めるか、という問題は、未解決のまま残されているといえる。そして、日本でも近時は家族法改正の議論が高まり、実親子法の改正案もいくつか提案されていることからすれば、この問題はいっそう深く研究する必要がある。 今年度の研究では、民事訴訟法の証拠法分野に関する基礎的検討を含め、研究の主要目的である親子関係における遺伝診断の意義について、明らかにしていく予定である。
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