第一の研究計画に関する政府間関係論に関しては、スコットランでは2007年以来、地域政党であるスコットランド国民党(SNP)が少数与党として政権を担当し、分権改革以降、初めてロンドンの与党と異なるという政治状況を生じさせた。当初は、SNP政権とUK政府との関係が対立的に、また、議院内閣制において少数党であることで政権運営を不安定にさせることが懸念された。ところが、SNP政権は09年まで比較的穏健な政権運営を行ってきた。一方、地方税制改革、アルコールの安売り規制、小学校低学年のクラスの少人数化など、マニフェストの主要項目は少数与党ゆえ実現できていない。今後、10年秋にはSNPを除くすべての主要政党が反対している独立を問うための住民投票を予定していることと、10年5月の下院選挙、11年5月のスコットランド議会選挙の結果が、政府間関係を変容させる可能性があり、いっそうの考察が必要となる。第二番目の「ウェスト・ロジアン問題」の歴史的経過についてみれば、その原型はアイルランド自治問題にさかのぼることができる。具体的には、1886年アイルランド自治法において、アイルランド選出国会議員のあり方が検討された。当時、グラッドストンは、アイルランド議会議員の除外、またはUK政府の留保権限の審議にのみ参加させる方法を検討したが、理論的整合性に欠け断念せざるを得なかった。結果として、アイルランド選出の国会議員数を減らすことで決着した。こうした問題の構図はほぼそのままの形で、70年代の後半、スコットランド分権改革の議論において再燃する。なお、同じく議会主権との関係も重大な争点となっており、イギリス憲法学のダイシーは議会主権を維持する観点から、アイルランド自治法に対して理論的に反対の論陣を展開した。ダイシーの批判は現在でも国家統治と権限移譲の問題を検討する際に重要な論点として引用されており、次年度以降の検討課題としたい。
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