本年度は連合王国の「領域政治」から示唆を得ながら、現代の中央地方関係において「領域」が政治的意味を有する条件とは何かを考察し、「領域」と「機能」との相互作用から、現代国家の統合形態とその特質を明らかにした。特に、国会主権原理と各「領域」の議会の立法権の関係、「領域」から選出される国会議員の役割に関するウエスト・ロジアン問題、バーネット・フォーミュラー方式による一括交付金の算定と各「領域」への財政資源配分について検討を行い、「領域」に対する権限移譲を動態的にとらえる必要性を指摘した。権限移譲には単一の固定的なモデルがあるわけではなく、紆余曲折を経て常に変化し続けているし、権限移譲が失敗したり、改革が挫折することもある。さらに、現代の連合王国の「領域」と国家統合の問題の根源は、19世紀後半のアイルランド自治問題にあることを明らかになった。こうした点を踏まえ、連合王国の国家構造を、ステイト・オブ・ユニオンズとしてとらえる必要性を明らかにした。そして、連合王国の国家構造を、単一主権国家としてのユニタリー・ステイトとしてよりも、それぞれの「領域」に不均一な形で権限が移譲されているユニオン・ステイトとして理解する意義を、さらには、ステイト・オブ・ユニオンズとしてとらえる必要性を指摘した。一方、1999年より発足し、10年余りを経たスコットランド議会と政府が「領域」に即した独自の政策をどのように決定し、執行しているのかを明らかにした。スコットランド議会は、比例代表制を採用した独自の選挙制度を採用するなどロンドンのウェストミンスター議会とは異なる「新しい政治」を志向しているものの、その成果は限定的なものに止まっている。
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