本年度は、スコットランドを中心としたイギリスの領域政治の現状と課題を実証的、理論的に考察した研究のとりまとめを行った。「領域」ごとの政治的社会的実情に応じた不均一な権限移譲は、自己決定権の確立という観点からは望ましい一方、新たな問題状況を生み出している。その象徴が本研究で検討した「ウェスト・ロジアン問題」であった。国会議員の代表の役割の違いが問題化される背景には、「領域」間における市民一人あたりの政府支出額の差異、ならびに「領域」間における社会サービス水準の格差の顕在化と関連付けて論じられる政治状況がある。「一国多制度」型の権限移譲は、国家統合のありかたに難問を突き付け、イギリスの福祉国家体制を支える社会的シティズンシップの概念が見直されるとともに、ユニオンというイギリスの憲法構造の再考に連動する構図が明らかになった。また、2011年5月に第4回スコットランド議会選挙行われ、地域政党であるスコットランド国民党が圧勝した。その結果、スコットランド国民党が選挙公約として掲げたスコットランドのイギリスからの分離独立を問う住民投票の実施が現実のものとなった(2014年秋実施予定)。現在、ロンドンでも、スコットランドでも、住民投票の実施方法、そして、スコットランド独立の是非に対する議論が高まっている。独立に反対するユニオニストも、スコットランド議会に対するいっそうの権限移譲を主張しており、イギリスの領域政治をいっそう理解するためにも、今後、国家の枠内に存する「領域」に対する最大限の権限移譲と、グローバル化の下での独立国家の差異、メリット・デメリットをさらに分析する必要性がある。
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