アルトジウス研究には、(1)19世紀から20世紀前半における多元的国家論の研究動向の中でアルトジウスを位置づけ、連邦制論や補完性原理に注目したもの、(2)ヨーロッパ統合の思想史的源流としてアルトジウスにおける下からの主権的国家論を特徴づけるものなど、現代との接点を念頭に置いた研究がある。次に、(3)アリストテレスの自然観・人間観・政治観の再構成として、アルトジウスのconsociatioをはじめとした共同体観をとらえるもの、(4)ローマ法の受容の観点からアルトジウスのJurisprudentia Romanaeの解読を試みるもの、(5)カルヴィニズムの文脈にアルトジウスを位置づけ、抵抗権思想や立憲主義思想の系譜として注目するものなどが挙げられる。 今年度は、昨年度に引き続き、(3)(4)(5)の観点から従来の研究をとらえ直し、テクスト読解に力を注いだ。もっとも、(4)と(5)は極めて難解な作業であり、研究当初の予定よりも大幅に遅れをとっている。とりわけ、昨年度の研究実績で浮かび上がってきた中世ヨーロッパの都市論という視角は、他分野の研究状況をも踏まえる必要があることから、現在も作業を続行している。また、アルトジウスの共同体論は、近年連邦制論とのかかわりが盛んに論じられているが、その多くはルソー的な国家一元論と対比させた形で展開されている。しかし、アルトジウスの都市自治論をとらえると、むしろルソーの人民主権論との連続性が浮かび上がってくる。ルソーの示した人民主権論が道半ばに終わったとするならば、その道程をアルトジウスがいかに先駆的にとらえていたのかを明らかにすることは、人民主権論の具現化をめぐって、大きな視角が開かれる。 また、この研究成果は、現代の政治哲学としても大きな視角を切り拓くものであり、共同体と自治をめぐる新たな視点を見出し得た点については、今年度の成果として公表できた。
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