研究概要 |
近代フランス政治思想におけるパトリオティズムとナショナリズムの問題を探求するという本研究の第一年目の課題は、18世紀フランスの政治思想家J.J.ルソーにおける「市民」「国民」「人類」という三つの観念をその全著作にわたって精査し、その関係を明確化しようというものである。ルソーの思想は時代とともに変遷するが、その変遷の中に、パトリオティズムとナショナリズムとの間の緊張にみちた関係が原型的に表出しているように思われるからである。膨大な研究の蓄積があるルソーではあるが、近年、そのパトリオティズムに注目する新しい研究も刊行されるなど(G.Lepan, Jean-Jacques Rousseau et le patriotisme, 2007)、研究状況は活況を呈している。こうした動向をふまえつつ、新しいルソー像を描き出すべく集中的に研究を進め、論文の形で公刊するに至った。この論文を通して、古典古代ギリシア・ローマに由来するところの、共和政という政治体制への忠誠を説くパトリオティズムと、生まれの同一性、言語や文化の同一性を基礎に置くナショナリズムが性格の違いを示しつつも、渾然一体となる様を明らかにすることができた。 それと平行して、フランスの政治思想の基本的性格を明らかにする基礎作業をおこない、フランス・リベラリズムの特質をイギリスのそれと比較するという作業を行い、その一端を日仏教会におけるシンポジウムで報告した。また、ケンブリッジ大学のフランス思想研究の大家であるCecil Courtney氏を招聘するなど、フランス政治思想研究のための研究会を積極的に開催した。
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