1 シェースの『第三身分とは何か』における「国民」概念の分析に研究のターゲットをしぼり、1)シェースが論争相手としたと推定されるラボー・サン・テティエンヌ、ムーニエ等、同時代の革命家による政治パンフレットとの比較、2)シェースの草稿で展開される国民経済論の精査、3)ルソーとシェースの政治思想の比較をおこなった。シェースの「国民」概念は、ジャコバン派の祖国愛をめぐる言説にはさほどの影響を与えておらず、もっぱらジロンド派のブリッソ(とりわけ、彼が主宰した雑誌『フランスの愛国者』(Patriote Francais)における諸論説)における愛国心論に顕著な影響を与えたことを解明した。2011年3月の震災の影響で海外出張が中止となったが、繰越を認めていただいたため、8月に無事、資料調査をおこなうことができた。 2 シェースの『第三身分とは何か』を新訳(岩波書店、2011年2月)のかたちで出版した。 3 イギリスとフランスの近代政治思想を比較するという作業をおこない、特に、商業と自由の国イギリスという表象が出回ったフランスの18世紀後半においては、それとの対抗上、自国のアイデンティティを国内における農業生産重視、イギリス流の植民地帝国とは異なる伝統的な君主政支配の安定性というところに求めたことが明らかになった。こうした議論の枠組みは、フランス革命期にナショナリズムが噴出した際に、それが独特の反イギリス思想、反自由主義的傾向を生み出した。 4 ドイツにおいて、フランス革命がどのように受容されたかの研究を開始した。ドイツの自由派がフランス革命を支持しつつ、それが特にナポレオンによる侵略という手段を媒介にしてもたらされたことへの屈折した議論が明らかになりつつある。また、ドイツでは、むしろ保守派の間に、ロベスピエールを支持する議論があったことも興味深い発見であった。
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