平成23年度は研究の成果をまとめる作業を中心に計画通り、研究を遂行した。特に、ルソーおよび19世紀の議論に焦点をあて計画の総括をおこない、また平行して3年間の成果をもとに、単著の刊行のために多くの時間を費やした。また、本年度、以下の諸点について、新たな分析を行った。 (1)ルソーにおけるパトリオティズムについて、その「連合」の概念を媒介に考察を深め、その成果を社会思想学会で報告した。小国連合というアイデアの重要性は、ルソーに止まらず、パトリオティズムとは何かを考える上で、重要な意味をもつことが判明した。 『(2)ルソーの『新エロイーズ』を検討し、イギリスに批判的であったはずのルソーが、この作品の主要登場人物に、イギリスに対する高い評価を語らせている点にも考察を加えた。 (3)ルソーの未完の劇作『ルクレチアの死』における女性像と『新エロイーズ』の主人公の比較をおこない、女性の徳(祖国愛)の問題がどのように議論されてきたかを考察した。当初想定していた以上の広がりを含む問題であることが判明し、遡ってマキアヴェッリの作品等も考察した。 (4)これまでやや手薄であったスタール夫人についての研究をおこなった。ルソーの小説作品を分析したため、彼女のルソーへの高い崇拝の由来が明快に理解できた。男性のみならず、女性にも祖国愛が必要だという議論は、他にイギリスのウルストンクラフトにも共通することが判明した。女性と祖国愛という新しい観点が飛躍的に明確になり、その一部を著書(共著)で発表した。 (5)3年間の考察を統合する作業に着手した。パトリオティズムとナショナリズムの関係は、一見その対極に位置すると思われるコスモポリタニズムと必ずしも常に相反するものではないことが明らかになるとともに、パトリオティズム・ナショナリズムの双方がジェンダーの問題と密接に関係することが判明し、その観点を含めた考察をおこなった。
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