2009年度はフィリピン政治における市民社会の役割について主として国外的要因と市場との関係において考察した。 第一に、国外的要因は特に海外ドナーの影響に焦点を当てて論じた。フィリピン政治においても、市民社会の動静においても、国際機関や海外資金提供者の役割は無視しえないほどの影響力を持っているかに見える。それを1990年代以降の税制改革や貧困政策を通じて検討した。結論としては、長期的に見た場合、国際勢力による新自由主義的な方向への「政策融合」が生じているものの、短期的社会運営あるいは具体的政策においてはフィリピン国家、市民社会の主導性を保持していると言える。この成果の一部はペーパーThe Philippine Post-Colonial State and External Factors : The Impact of Aid Programとしてまとめ、さらに韓国において開催された第6回国際アジア研究者研究大会においてもハワイ大学Fred Magdalena教授、江原大学權王信教授、筑波大学鈴木伸隆教授とともにパネルを組んで口頭報告を行った。 貧困政策においては90年代以降隆盛となっている「マイクロファイナンス」に焦点を当てながら検討を行った。マイクロファイナンスは貧困政策の柱の一つとして位置付けられ政府の制度整備を前提として急速に社会に広まった。その結果、商業銀行なども乗り出すほどに普及した。しかし市民社会がそもそも理念として掲げてきた貧困層の生活改善という目的は後景に退き、市場における利益追求が優先するようになった。市民社会の理念が市場に絡みとられた例といえる。この成果は現時点で論文としてまとめる段階にある。
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