2011年度は、市民社会団体の具体的取り組みの実態的調査と、国家と社会の関係一般という抽象的考察の2つの柱で研究を進めた。第一に市民社会団体の取り組みついては、近年、国家制度のみならず市場とも融和的な関係で進められているマイクロファイナンスの実践に焦点を当てた。前年度か作業を行っていた国家政策と全体的状況については論文「商業化するマイクロファイナンス-フィリピンでの普及と貧困問題-」2011として刊行した。またミンダナオのNGO"South Cotabato Foundation"のマイクロファイナンスの実践についての実態調査を実施し、現在論文としてまとめている。これらを通じて、市民社会の自主的草の根活動として始まったマイクロファイナンスが1990年代後半以降国家政策としても位置づけられる、逆に登録、運営などを通じて国家の管理下に置かれることとなったこと、またそれ以上に、制度整備が進むと同時に商業資本が急速に進出し、草の根の理念とはかけ離れた市場主義的実態が表れてきた事が明らかになった。第二に前2年間の考察を踏まえて国家と社会の関係一般について、フィリピンを他の東南アジア諸国(インドネシア、タイ、マレーシア)と比較しながら考察したものを「新自由主義下の国家・社会関係-ASEAN諸国における展開」2012としてまとめた。フィリピンでは1980年代以降影響力を増してきた市民社会と並んで伝統的エリート勢力(伝統社会)も変わらぬ影響力を行使しており、国家そのものがむしろそれぞれの利益を実現する場と化し、公共性、市民利益の実現といった観点が希薄化し、他の東南アジア諸国の政治態勢を大きく変容させることになった1998年アジア危機を経てもそれが不変であった事を論じた。付け加えて、国際機関の勧告がフィリピン国内の政治エリート(社会勢力)によりどのように骨抜き化され、またエリートの便益に供され、一般市民の利益と相反する方向に導かれるのかを整理し論文Foreign donors and the Philippine State: Policy Convergence and Domesticationとして刊行した。
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