研究概要 |
本研究では、市場メカニズム導入・実施を事業者・行政・政治の間で展開される「市場の制度化ゲーム」と捉える政治経済学的な動学的視座から、発着枠市場及びその実効化メカニズムの機能が、プレーヤーの戦略的行動によりいかに阻害(または促進)されたのかを、発着枠取引データ及び発着枠取引後の運航データを世界で初めて包括的に用いて定量的に分析する。 本年度は、取引各社の運航関連データを用いた定量的分析により「非効率的発着枠利用仮説」の検証を行った。1999年から2006年までの合計60万件を超えるデータに回帰分析を施した結果、米国運輸省や空港当局、あるいは新規参入航空会社の認識とは異なり、航空機1機あたりの座席数を指標とした場合、混雑空港での発着枠利用は、それ以外の空港と比較して必ずしも非効率なものではないことが明らかとなった。実際、ケネディ空港とオヘア空港については発着枠利用が他の空港に比べて若干、非効率であることを示唆する結果が出たが、ナショナル空港とラガーディア空港についてはむしろ逆に他の空港に比べて発着枠利用が効率的であることを示唆する結果が得られた。座席数に与える影響は航空会社の規模や規制といった要因の方がより大きいため、発着枠市場(およびそこでの発着枠取引)それ自体の影響はあまり大きいものではないが、ラガーディア空港での発着枠利用が非効率であるという連邦航空局などの申し立てが統計的裏付けを得られなかった点は大変興味深い。この研究成果については、2010年7月に開催されるAir Transportation Research Societyでの報告を申請中である(採否の連絡は2010年3月末の予定)。 なお、「反競争的発着枠取引仮説」の検証結果の一部が、Transportation Research Part B (Methodology), Vol. 44(2010), pp. 330-357として公表された。
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