研究初年度にあたる本年度は、過去の成果を参照しつつ、分析枠組みの精緻化を行った。本研究の重要な問いに、「政権形成に要する時間」を決定する要因の策定があるが、この点につきピアソン、ストロムらの論考に従い、政治制度的要因(連邦制か否か、元首の政治的機能、信任投票の有無、政党システムの破片化の程度)によって分析枠組みを想定した(アクター数を増大させる要因が制度上あれば合意形成には時間を要するとの仮説にもとづく)。以上の成果は、「時間の比較政治学一合意形成のジレンマ(一)」として聖学院大学総合研究所紀要に掲載予定である。 本研究の最大の目的は、フランス、ドイツと上記分析枠組みを用いて比較検討しながら、申請者の主たるフィールドであるベルギーの、近年の分裂危機の要因を探ることにあった。ベルギーの政権形成の慣例は特異であり、その歴史的起源を調査するなかで「君主の政治的機能とベルギーの分裂危機一君主支配と市民の抵抗の相克一」を執筆した。また、分裂危機の政治過程を調査し、それを整理したものを日本比較政治学会にて報告し、さらにそのメンバーを中心に、高橋直樹・岡部恭宜編『構造と主体-比較政治学からの考察』を刊行した。 また「時間」の政治的インパクトをどのように分析するか、という手法に言及したうえで、ベルギーの分裂危機を分析したものとして、「ベルギー分裂危機とブリュッセル周辺域の民族問題-「国家政治の縮図」から「都市政治の復権」へ-」(査読付)を執筆した(6月刊行予定)。 以上はいずれもベルギーのみにとどまっており、2010年度にドイツ、フランスへの調査を行いつつ、最大の問いである「政権形成に要した時間とその後の政局」との関係を相対化する。ただし、2010年4月末にベルギーが再び政権崩壊、6月総選挙となったため、予定していた海外調査の多くをベルギーの情報収集に充てる可能性がある。
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