本研究は、政権形成交渉に要する「時間」と当該政権の「安定性」との間に何らかの相関があるかどうかを、質的かつ比較検討によって明らかにしようとするものである。特に、近年、政権形成に手間取り「分裂危機」を引き起こしているベルギーの政治的特殊性を明らかにするため、ドイツ、フランスと政治制度、政治アクターの動向を比較検討することを重要な目的としている。 初年度は比較の分析枠組みを精緻化することを試みたが、2年目にあたる22年度は、まず「政権形成交渉に要する時間の決定因は何か」という問いを検討した。この問いは「政権の安定性」という本研究の本質的な問題点を考察する際の前提となる。「時間」を左右する要因が導き出せれば、それらがその後の「政治的安定」の度合いにも何らかの影響を及ぼしているであろうと考えられるからである。 22年度は、予想以上にベルギーの政権形成交渉が長引いたため(結局、政治的空白の史上最長記録を更新)、ベルギーの現地調査(新聞資料などの調査および有識者へのインタビュー)、およびフランス政治、ドイツ政治に関する一次資料、二次文献の読解、その整理に努めた。 結果的に、フランス、ドイツとの比較によって、政権形成交渉の「時間」を左右する要因が、主に(1)国家元首(大統領や国王)の政治的権限(首相任命権)の実質的強弱、(2)上記(1)が弱い場合に、政党システムの破片性の程度、が重要な要因であることを明らかにした。ベルギーの場合、フランスと比べれば元首の権限は弱く、さらに政党システムの破片化が著しいため、特に時間を要することが理解できた。この成果は、以下の紀要論文に発表した。なお、本調査、研究の過程で得た他の知見は、著書などに反映されている。
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