初年度は、本研究のテーマであるエピクロス主義の政治思想を正確に理解し、その解明から期待される研究の展望をあらかじめ明確にすることを主たる課題として、関連テクストおよび内外先行研究の収集と分析につとめた。その成果として、まず本研究全体の総序にあたる論文「カルネアデスの講義-正義をめぐる二つのトポス」(国士舘大学政治研究所編『政治研究』創刊号)において、古代のエピクロス主義が正義の観念をめぐってストア派の自然法思想と鋭く対峙するコンヴェンショナリズムとして登場した次第を解明し、問題を提起した。次いで、近代政治思想によって忘却され、あるいは誤解されたエピクロス主義の原像をレオ・シュトラウスの見解に即して復元する試みとして、口頭報告の形で「レオ・シュトラウスのエピクロス主義解釈について」(第15回政治哲学研究会)を、またそれを敷衍・整序した論文「快楽主義と政治-レオ・シュトラウスのエピクロス主義解釈について」(政治哲学研究会編『政治哲学』第9号)を発表した。さらに近日中に発表予定の初年度の研究成果としては、エピクロス主義本来の政治哲学的モティーフを維持した近代の思想家としてモンテーニュに光をあて、その遺産が現代のオークショットの保守主義に継承されたと解釈する論文がある(「モンテーニュとオークショット-懐疑主義的保守主義の系譜」(野田裕久編『保守主義とは何か』ナカニシヤ出版)として近刊)。現在は研究2年目に向け、近代におけるエピクロス主義復興の立役者として知られるガッサンディの哲学を再評価し、そのエピクロス主義解釈の功罪について検討する論文、およびその影響をホッブズめ政治哲学において確認することを目的とした論文の2本を鋭意準備している。
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