研究概要 |
16世紀の宗教改革・宗教戦争を経て、主権概念が球立する。cuius regio eius religioの原則が示すように、主権は宗教的権威から独立しつつそれと結びつくという二重性を持っていた。18、19世紀を通じての政治社会の変化は、政治権力と宗教との分離を促進したが、それは宗教そのものの否定ではなかった。「国家と教会との分離」の原則によって宗教は市民社会の領域の問題とされることになった。古典的自由主義はそのための思想的根拠を提示したと言えよう。しかし一方でそれは市民社会の一種の「宗教化」を進めることになったのではないか。現代になって、民主主義の制度化と大衆社会の成立を通じて、宗教は再び政治化する道筋を見いだしたが、現代社会はこの問題を十分に検討してこなかった。「政教分離」という標語のみによっては、この事態に対応することはできないと考えられる。 2009度の研究は、このような問題について、近代市民社会論を宗教論の問題として読み直すための基礎作業として位置づけられる。以下はその実績である。 1.2009年度においては、1回のフランス出張を含め文献収集をおこないつつ、特に18、19世紀のフランス、イギリスの政治経済学(Economie politique, Political Economy)について、整理と分析をおこなった。 2.トクヴィルの宗教論に関して、2008年度末に発表した「『アンシァン・レジームと革命』のおける政治と宗教」の続編として、『アメリカのデモクラシー』を対象に分析をおこなった。 3.ジル・カンパニョロCNRS上席研究員(立教大学招聘研究員)による研究会(計4回)をおこなった。 4.ルソーの『エミール』における社会・経済論に関して、「エミールとそら豆」と題する論文を発表した(「II.研究発表」参照)。
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