人口の高齢化は、社会的なリスクとして捉えることができる。なぜなら少子高齢社会化に伴う生産労働力の低下は、高齢者を支える財政基盤の脆弱化、経済成長の鈍化につながると考えられるからである。高齢者人口の増大とネオリベラリズム的改革は、高齢者一人ひとり当たりの年金や医療費などの社会保障費の削減につながっている。これは、高齢者にとっては経済的負担の増加を意味し、貧困者であれば医療アクセスへの困難性から健康リスクの増大ともかかわってくる。2009年度は、EUにおける高齢社会政策に関する文献調査を行い、その最初の成果を編著書、福田耕治編『EU・欧州統合研究』(成文堂、2009年)として刊行した。とくに、同書で「EUの高齢者政策とリスク管理-貧困・社会的排除とCSRによるリスク制御-」において、高齢社会のリスク管理とはいかなるものかを概観した後、EUのリスク管理の事例として、人口学的にある程度のリスク予測が可能なEU高齢者政策を取り上げた。第1に、EU・欧州諸国が直面する人口高齢化状況を明らかにし、この課題に対応するための高齢者雇用の現状と雇用可能性を検討した。第2に、EUの高齢者雇用政策を取り上げ、CSR活動とリスク管理の関連性を分析した。第3に、高齢者の就業・引退決定に影響を与える年金制度などの所得保障や医療保障をめぐる問題を検討し、高齢労働者の雇用可能性と社会的リスクの制御をめぐる諸問題を考察した。EU諸国では人口高齢社会化の進行と同時に、世界金融危機・経済危機に伴う国家財政の逼迫に直面し、もはや従来のような手厚い社会保障を提供できる財政状況ではなくなった。人口学的にある程度のリスク予測が可能な高齢社会問題に対して、持続可能な社会保障制度を構築すべく、EUは各加盟国の年金制度改革を支援している。
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