本研究では、EUの持続可能な経済発展と高齢社会戦略について明らかにした。EU/加盟諸国では2000年代に入り高齢社会化が進行し、年金改革が最重要懸案のひとつとなっている。欧州諸国(旧EU15加盟国平均)では、総人口に占める65歳以上の占める割合(高齢化率)が29.8%となり、日本を上回る「超高齢社会」となった。世界経済・金融危機の欧州諸国への影響、ギリシャからアイルランド、ポルトガルへと欧州債務危機が波及することにより、EUやユーロに対する懸念がさらに強まり、高齢社会問題をさらに深刻化させた。しかし債務危機の結果、EU諸国は年金財政の持続可能性の維持が困難となりつつある状況を認識し、結果的に各国とも似通った「年金政策レジューム」を形成する方向に向かっている。本研究の特色は、こうした年金に関わる政策レジームを制度設計し、下支えをしてきたと考えられるEUにおける高齢社会戦略やOMCによる各国年金政策調整のためのガバナンスの仕組みに着目し、それらが形成された背景と具体的な調整メカニズムを明らかにし、その可能性や限界、課題について検討したことにある。リスボン戦略からリスボン条約に至るEUの持続可能な経済発展戦略のプロセスを分析し、高齢者の社会的包摂をめぐる「開放型政策調整方式」(Open Method of Coordination:OMC)による年金政策レジーム形成の背景を明確化した。リスボン条約に至る欧州ガバナンスの改革では、グローバル化とともに急速に高齢化する欧州の人口動態的変化への対応として、年金の財政的持続可能性と社会的妥当性を担保するEUの高齢社会戦略の制度設計はいかなるものであったのか分析した。また加盟国間における年金政策調整の特質と課題について考察し、EU高齢社会戦略の特質と課題を析出した。
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