本研究は、市民事業をめぐる韓国での近年の動向を市民的公共性の新たな展開として位置づけ、日本での経験や試みとも対比しつつ、市民事業の事例調査と分析を試みるとともに、市民社会や公共性(公共圏)理論にもつその含意を明らかにすることを目的としている。 今年度は、現地での基礎調査・資料の収集と、日本での研究サーベイ・研究交流などの双方を実施し、次年度のより本格的な現地調査に向けた基礎固めをおこなった。現地での基礎調査については、ソウル、済州道地域を中心に実施し、ソウルでは「希望製作所」、「ともに働く財団」、「HAJA・センター」、聖公会大学「社会的企業研究センター」、労働部、社会福祉部などの関連政府機関などでの資料蒐集、インタビューなどを実施し、社会的企業育成法の成立の背景、同法に基づく社会的企業育成の実績・現状など、韓国での市民事業全般の動向について確認した。さらにソウルでは韓国でのまちづくりやコミュニティビジネスの先端的事例として麻浦区ソンミサン地区を集中的に取材した。済州島では、済州市で三つの社会福祉分野の社会的企業を取材した。 こうした現地調査とともに、「日本希望製作所」、「大阪上町台地コミュニティ・デザイン研究会」、「コリアNGOセンター」などと研究会などを開催し、日韓市民事業の比較研究のための基盤形成やネットワークづくりを実施した。 今年度はさらに、この間の韓国市民社会の調査研究の成果を川瀬俊治との共編著『ろうそくデモを超えて 韓国社会はどこに行くのか』(東方出版、2009年10月刊行)という形で刊行し、韓国社会の先導役を演じてきた市民運動の新しい動向を探りながら、今後の韓国社会の全体としての行方を検証した。
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