2011年度は主として研究成果の発表を行った。4本の異なる論文を発表するとともに、海外での学会発表も行った。本研究の主たる目的は京都学派の構築主義理論をベースに新たな国際関係理論の可能性を探ることにあった。本研究を通して明らかになってきたことは、京都学派の構築主義理論は一方で現代の国際関係理論に対する大きな貢献となりうるが、他方で多様な文化概念を国家主義ベースで画一化してしまう可能性があるということである。すなわち、構築主義自体は現代の実証主義一辺倒の国際関係理論に対するアンチテーゼとして貢献することは可能であるが、構築主義が文化および国家という枠組みを所与のものとして受け入れた形で展開する時、いわゆるオクシデンタリズムの罠にとらわれる可能性が高くなるのである。これは当時の非西欧の国際関係理論の展開に特徴的なものであり、京都学派に限られた話ではない。そのメカニズムを明らかにするためには、大戦間期の京都学派以外の国内の政治思想や国外における非西欧の政治思想について研究を進める必要があり、事実こうした側面はすでにE.H.カーやハンナ・アレントによって触れられている。彼らは主としてドイツに焦点を当てた研究を行ったが、日本についての同様の研究は少なくとも英文ではほとんど発表されていない。そのため、その部分での更なる研究および海外に向けた発信が必要とされるであろう。これは特に、現代におけるいわゆるPost-Western IRTの流れを考えれば、早急に進める必要があると考えられる。
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