2010年度は研究計画の2年目として、初年度に明らかにした中東欧諸国の福祉枠組みの相違(全ての市民に対してある程度包括的な福祉を提供するエストニア・ラトヴィア・スロヴェニア、古典的な男性稼ぎ手モデルに依拠した男性の労働と女性の在宅育児を基本とするチェコ・スロヴァキア、福祉の対象が低所得者層を中心とする残余的なリトアニア・ポーランド、そして中間層への支援は厚いが低所得者層の保護が不十分なハンガリーというパターンの相違)が生じた理由について検討するとともに、またこの相違が福祉のあり方にどのような違いをもたらしているかについても研究を進めた。各国間で福祉のあり方に相違が生じた理由については、今年度の研究を通して体制転換後の各国における主要な産業の相違、特に社会主義期の製造業中心の産業構造が維持されているか、あるいは体制転換の中で軽工業やIT、あるいはサービス産業主体の産業構造へと転換したかが、各国の労働組合や左派政党の影響力に相違をもたらし、それが福祉のあり方とも結びついていること、ただし各国固有の要因と結びついた政党政治の作用もあり、産業構造の違いが福祉枠組みのあり方と直線的に結びついているわけではないことを明らかにした。他方で枠組みの違いがもたらす効果については、福祉枠組みの違いは各国における格差や貧困の問題、あるいは女性のありかた(労働力としての女性が重視されているか、あるいは家庭内ケア担当としての女性が求められているか)という点などでの相違と密接な連関があることを明らかにした。今年度の成果を踏まえて、最終年度では包括的な中東欧諸国の福祉政治に関する分析枠組みの構築を行う予定である。
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