2011年度は研究計画の最終年として、前年度までに明らかにされた中東欧諸国の福祉枠組みの相違の形、およびそのような相違が生じた理由についてさらなる分析を行い、以下の知見をえることができた。 1)中東欧諸国の福祉枠組みは、かつては社会主義型の普遍的だが給付水準が低い福祉枠組みが存在していたという点では共通していたが、現在では普遍的・包括的なな福祉が提供されているエストニア、ラトヴィア、スロヴェニア、労働者を主たる対象とする基礎保証が中心となっているチェコとスロヴァキア、福祉は必要とされる層に残余的に提供されるリトアニアとポーランド、そして子供のいる家族を重点的に支援するハンガリーという形の相違が生じている。 2)このような相違が生じた理由としては、(a)体制転換後に生じた産業構造の相違、およびそれに伴う労働組合と社会民主主義政党の影響力の相違、および(b)各国に存在する社会内の差異(階層、ジェンダー、および民族)の違い、およびそれに伴う福祉をめぐる政治対立(政党間関係)のあり方の相違、の2つの要因が存在している。 3)8カ国の中でバルト3国とポーランドは製造業主体の産業構造からサービス産業中心へと転換し、その結果として労組や社民政党の影響力は衰退したが、この中で民族問題を抱えるエストニアとラトヴィアでは自民族を優先する福祉が構築されたのに対して、リトアニアとポーランドでは福祉はネオベラル的な残余型のものとなった。 4)他の4カ国は社会主義期以来の製造業主体の産業構造を一応維持し、労組や社民政党の影響力も維持されたが、その中でスロヴェニアは女性をも含めた普遍的福祉枠組みが構築されたのに対し、チェコとスロヴァキアは政党間対立からりベラルと基礎保障の混合的な制度が構築され、またハンガリーでは保守政党が福祉を追求する中で、家族重視の独自な枠組みが構築されることとなった。
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