英国アバディーン州政府が、北海地域諮問評議会(NSRAC)を舞台に、その構成員である地方政府・漁業団体・NGOなど規範の異なる非国家領域的行為体を戦略的に誘導し、ガバナンス形成をコーディネートしていることを、前年度までの調査で明らかにした。このNSRACモデルが、EU統合深化の過程で登場した"挟空間"「マクロリージョン」における、国境・国家スケール・国家という行為体の種を逸脱した機能包括的ガバナンスのあり方を提示している。 本年度は、バルト海・ドナウ川に続き、EU議会承認に向け最終段階に入っている北海マクロリージョンの『北海地域戦略』策定過程と将来構想について、公式HP上で公開されている議事録・報告書・法令等公的資料の分析により調査した。また、ブリティッシュコロンビア大学海洋研究所を拠点に、本研究を総括し、成果として研究書『EUマクロリージョン』および英語論文の発表準備を行った。これらは平成24年度中に発表予定である。 共通漁業政策により、国家レベルから超国家レベルに政策権限のスケールが移されたものの、漁獲制限決定などの現実的な解決方法として北海地域やバルト海地域レベルに諮問をかけ、それらスケールの政治力がEU政策の決定に大きな影響力を持ち始めている。これは、EU共通政策の不具合が、EU政策の「地域化」を通じて、国家を政策容器の基礎単位としない「新しい政策容器」によって補完されるようになったことを示している。つまり、"挟空間"マクロリージョンにおいて、ステークホルダー参加の機能包括型ガバナンス「クロススケールガバナンス」が存在することが、本研究の結果、明らかになった。今後、このガバナンスモデルの類型化により、行為体間の権力関係の変化を分析し、「マクロリージョン戦略」がリスボン条約の領域的結束を強化する役割を果たしうるのかを明らかにすることが可能となる。
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