今年度は本研究を構成する3つのテーマのうち、主として(1)外交力学の解明に取り組んだ。とくに各種一次史料の分析などをもとに、部分的核実験停止条約調印や米ソ首脳直通回線(ホットライン)設置などに象徴される、1963年の冷戦緩和の過程を明らかにし、ケネディの対ソ外交とベトナム政策の関連について考察した。かねてケネディ外交には、その平和推進者たる側面と反共外交の遂行者たる側面のいずれが正しいかという論争があり、本研究は平和確立を志向しつつも冷戦論理に由来する制約を免れなかったケネディ像を提示した。 具体的には、(1)米ソ間の和解は両国指導者の個人的関係に依拠し、またむしろソ連側の主導権によるものであったこと、(2)和解のきっかけとなったキューバ危機がかえって両国間に不信感を増幅させたこと、(3)両国はなお数多くの未解決問題を抱えていたこと、(4)米ソ二国間および欧州での関係改善と対照的に、東南アジアを含む発展途上世界ではむしろ対立が激化したこと、(5)ケネディが求める国際秩序の安定と米ソ勢力圏の画定をソ連は受け入れようとしなかったこと、(6)その結果米ソ間の緊張緩和と同時期にベトナム介入が拡大されるという事態が発生したことなどが明らかになった。 これと並行して、(2)軍事力学、(3)政治力学に相当する、南ベトナム国内のゲリラ戦争への対処とその問題点、アメリカと南ベトナムのゴ・ジン・ジェム政府との軋轢や政府転覆にいたる過程についてもさらに実証研究を進めた。
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