21年度は、海洋における諸問題の中でも、今後の開発が予想され、利益が莫大であることから注目が集まっている深海底遺伝資源をめぐる議論の動向を明らかにした。 1982年に採択された国連海洋法条約は、海洋ガバナンスの根幹と位置付けられ、その一部を構成する深海底レジームは、深海の鉱物資源を「人類共同財産」とし、国際海底機構の創設による開発、管理、途上国への利益配分を行う制度を構築した。しかし、海洋遺伝資源の利用は、国連海洋法条約の策定時にはまったく想定されていなかった問題であり、具体の規定があるわけではない。一方、1992年の生物多様性条約は、遺伝資源の保全を一つの目的としているが、国家管轄権外の領域、すなわち、深海底を射程においていない。こうして、深海底遺伝資源の開発は、制度的欠けつ状況の中におかれており、現在、各フォーラムでどのような議論、調整が行われようとしているのかを考察した。そこで明らかになったことは、既存の制度の呪縛があり、利益配分を得るためには制度の改変を求める側(=途上国)に負荷がかかり議論が膠着状態に陥っていることである。このことは新規の問題に対して既存の制度が対応する際のコンフリクトの調整プロセスとして、一般化が可能と思われ、22年度は、さらなる事例研究が必要とされる。また、22年度は生物多様性条約の締約国会議が名古屋で開催されることから、その基本的な問題を把握するという意味でも21年度の研究は意義があったと思われる。
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