22年度は、海洋をめぐる制度間のコンフリクトの調整プロセスの解明という目的のもと、生物多様性条約の交渉過程を素材として、理論面と実証面の双方から研究を行った。 まず、理論面では、国際法の領域でILC(=国際法委員会)を中心に議論された立憲化の問題を精査することによって、国際政治領域で扱われる制度間コンフリクトの議論との異同、問題点を整理した。 一方、実証面では、21年10月に名古屋で開催された生物多様性条約締約国会議の現場に立ち会うことができ、その後、NGOや政府関係者からの聞き取り調査などを行うことができた。締約国会議では、愛知ターゲットとABSに関連する名古屋議定書が最終日に採択されているが、両者とも内容は曖昧で、交渉が決裂する事態だけは避けたい、あるいは失敗の責任を負いたくないというメンツが合意をもたらしたものと考えられる。海洋については、過剰漁獲や破壊的漁業の禁止、保護区の設定は目標のなかに盛り込まれたが、細部については今後の地域漁業機関あるいは各国の国内法による対応を待たざるをえない形となった。すでに昨年度の研究で検証したCITES(ワシントン条約)締約国会議でも見られたように、参加国の普遍性が高く扱う問題領域が広い環境会議には限界があることになり、制度間コンフリクトというよりも、補完関係にあることを共通項として指摘することができる。来年度最終段階として、これらの事例を整理することによって、海洋ガバナンスにおける日本の役割なども解明できると思われる。
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