平成24年度においては、米英同盟と英軍の変革に関する研究に重点を置いた。年度を通じて、関連する先行研究のレビュー調査と日本で入手可能な一次資料の収集・分析を行った。また、年度末には、英国のロンドンおよびシュリベンハムへ調査旅行に行き、国際戦略研究所、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校、およびキングズ・カレッジ・ロンドン防衛学部において聞き取り調査と資料集を実施した。また、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)では、研究テーマに関連する討論会に出席した。本年度に実施した研究において特に重要と思われる成果は次のとおり。 ・米軍変革は、どのようにして同盟国である英国へ伝播してきたのか。 米軍変革の欧州同盟国への伝播については、2002年のプラハNATO首脳会議で設立が決定された変革連合軍司令部(ACT)が大きな役割を果たしたとの仮説を立てたが、それを裏付ける証拠は見つからなかった。英国の場合、米英の二国間関係の方がずっと重要であった。米国国防総省の戦力変革本部(OFT)は、2002年にNATO同盟諸国と「ネットワーク中心の戦い」概念について議論を開始した。英国国防省が戦力変革に本格的に取り組むようになったのは2003年になってからである(2003年防衛白書)。ただし、英国は、豪州同様、米国のアイディアをそのまま受け入れるのではなく、自国の事情にあわせて変革を進めてきた。 ・英国による変革の受容は、なぜ促進(あるいは阻害)されてきたのか。 同盟国である米国の軍隊との相互運用性を高めるという観点が変革受容を推進してきた。他方で、英国が米国の戦略変革を部分的に受容してきたのは、自国の軍事組織文化や財政的制約、そして行政府の自律性に影響を受けている。
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