本研究は、日本人戦犯の釈放をめぐる戦後日本外交の政策決定とその効果について実証的に分析するものである。この研究計画のために、平成22年度は、一次資料の調査収集活動を合計5回にわたって実施した。本研究の実証的な性格上、こうした資料調査収集活動は、本研究計画の最終年度にいたるまで継続する予定である。 平成22年度は、靖国偕行文庫(東京都千代田区)や外務省外交史料館(東京都港区)に所蔵される公文書を集中的に閲覧、調査することで、貴重な情報を多数、入手することができた。とりわけ平成22年度には外務省外交史料館によって沖縄返還・日米安保条約等に関するいわゆる「密約」関係文書が立て続けに公開されたが、そのなかに「BC級戦犯問題」「豪州政府保管B、C級戦犯」その他の件名になる戦犯裁判関連文書も含まれていた。これらを入手できたのは年度当初には予想しなかった成果であった。 特に後者は、高度成長期の一九六五年に作成された文書であり、日本が要求したBC級戦犯裁判記録の提供について、オーストラリア政府が「事柄の性質上、慎重な検討を要する」として回答を先延ばしにして、容易に応じなかったことがわかる。この頃には日豪関係が経済を中心に好転していた。しかし、それにもかかわらず、関係政府が裁判記録の提供に躊躇していたことは、改めて戦争犯罪裁判の「性質」の特殊性を示し、価値の高い情報といえる。 平成22年度は、以上のような新しい発見という成果を得て、ほぼ予定どおりに計画を実施した。残る平成23年度と24年度においても、分析作業の本格化と並行して、一次資料の調査を継続し、情報の収集に努める予定である。
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