研究概要 |
本研究課題は国際関係史を文化的側面から研究する最近の動向を踏まえたものであり、具体的にはカナダ、オーストラリア、アメリカ合衆国における日系移民問題を、国際関係論の枠組みで歴史的に分析することを目的とし、移民問題が外交や軍事政策にいかなる影響を及ぼしたかを明らかにした。移民や人種問題は従来国内問題として扱われてきたが、本研究ではこれらのテーマを国際関係や軍事的・戦略的研究としてとらえる点が、新しい研究方法論を採用していると言える。 日本の学会においては戦略研究と言えば軍事研究に終始する傾向があるが、欧米の学会では戦略研究と言えば、インテリジェンスやプロパガンダなどの文化政策などの文化的側面を含む研究が近年盛んに行われてきた。日本でもようやく「戦略研究学会」が近年設立されたが、まだこの学会の主流は軍事研究であるが、少数派とは言えインテリジェンスやプロパガンダ研究など、文化的な側面へのアプローチの成されるようになってきた。本研究はこうした最新の学会動向を踏まえた研究である。 具体的にはオーストラリアの白豪主義にはじまり、米国やカナダは厳しい排日移民政策をとるようなるのは、単に日系人に対する人種差別が理由ではなく、日本の台頭や大アジア主義に対する英米の脅威は、太平洋地域における日系移民の問題が「黄禍論」として表現され、政府レベルでは安全保障の問題として日系人排斥移民政策形成に至った。また一方でこうした欧米で巻き起こった「黄禍論」の言説が、日本におけるアジア主義やナショナリズムをより急進的なものへと向かわせたのかどうかという点も検討し、「白人優位主義」ネットワークとこれに対抗するアジア主義の相関関係を明らかになった。 実際の研究活動や研究成果としては収集した史料と文献を集中的に分析し、幅広い研究者との意見交換や議論で得られた知見をふまえて、学会発表をベースに論文にまとめて発表した。 日本国際政治学会2009年11月8日(神戸国際会議場於)の分科会トランスナショナルで、「大英帝国と米国における白人優位主義ネットワーク-日系移民問題を中心に-」という題目で学会発表、翌年2010年9月10日にオックスフォード大学で行われた「英国国際関係史学会」では 'Race and the British White Dominions, 1850-1924'というタイトルで、英連邦である白人自治領、オーストラリアやカナダにおける白人優位主義と日系移民排斥の関係を明らかにした。2011年7月にオーストラリア、パース、西オーストラリア大学で行われた「アジア太平洋・ヨーロッパ近現代史学会」では 'Defending the civilization'というタイトルで、人種問題と文明論の相関関係を明らかにし、また外交史研究におけるCultural Diplomacyという新しい分野開拓となり論文、'The Cultural Diplomacy of Sir James Renell Rodd'(On the Fringe ofDiplomacy, eds. By Fisher and Best, 2011, Ashgate, pp.209-224)として出版された。 また「大英帝国における移民・人種問題-米国と白人自治領における白人優位主義ネットワークをめぐって」という論文が、『ヨーロピアン・グローバリゼーションと諸文化圏の変容に関する研究』(東北学院大学編・2012年3月、363~380頁)に掲載され、また現在編集作業中(原稿提出済み)の論文集『アジア主義広域比較研究』(ミネルヴァ書房、全360頁、2012年発刊予定)の一章分に「人種問題とアジア主義」という論文が掲載予定であり、これらも本科学研究費の成果である。 上述したように本研究は日本の学会における戦略研究を軍事的なアプローチのみならず、文化研究や文化戦略研究に発展させていく過程における貢献にもなるであろう。また間接的には日本の外交政策における文化戦略論にも寄与出来るのではないだろうか。
|