平成24年度においては、米国アリゾナ州の移民法(S.B.1070 [2010年4月成立])を巡る論争に焦点をあてて分析した。不法移民取締りを州政府で独自に強化しようとしたS.B.1070に関しては、米国で賛否両論の論争が起きた。多くの争点が出されたが、なかでも移民規制は連邦政府の権限かそれとも州権かという問題が最高裁判所でとりあげられ、2012年6月に判決が出た。 州権論は、英領植民地時代からの歴史的背景をもち、南北戦争や第二次世界大戦後の公民権運動の流れのなかにもある。同時に、今後に進展すると予想される広域な地域統合で、州権があらたな役割をもつ可能性もないとはいえない。 S.B.1070論争を分析するなかで、筆者は、米国の出入国管理システムの形成と変容、人の移動の規制を巡る州権との関係、スペイン領アメリカの遺産、北米自由貿易協定の影響などを、国家の変容という観点から検討した。米国において連邦レヴェルで出入国管理が整備されていくのは、既に指摘されているように19世紀後半からのことであるが、筆者は、1924年の移民法がヴィザ・システムの導入に重要な役割を果たしていることに、とくに注目した。また、第二次世界大戦後に増加してきたヒスパニックに関しては、米国史におけるスペイン領アメリカの遺産を再検討するなかでとらえられるべきこと、さらに、ヒスパニックで最多のメキシコからの米国への人の流入が最近は減少し、今日、ヒスパニックの米国への移住は歴史的転換点にたっているかもしれないこと、そしてそれに北米自由貿易協定が関わっている可能性が高いことを見出した。人の移動の変化要因には、情報技術革命による生産のあり方の変化や広域な地域統合・連携の動き(NAFTAやTPPなど)を無視して語ることはできない。
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