研究計画に沿って、前年度に続き、アメリカ合衆国の外交史料、冷戦史の研究図書の閲読、立教大学が保管するトルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ニクソン大統領図書館の関係史料(マイクロフィルム)、これらの大統領図書館とNational Security Archive(ジョージ・ワシントン大学)が公開している関係史料(電子版)の分析を進めている。さらにプリンストン大学図書館、議会図書館(ワシントンDC)で収集したケナン文書、ニッツェ文書の分析を行っている。これらの作業は『冷戦-アメリカの民主主義的生活様式を守る戦い』(2011年11月に有斐閣より刊行)の執筆にあたり、非常に有意義な作業であった。 『冷戦』は冷戦の開始、展開、終結をアメリカ外交史の文脈に置いて探求する試みである。本研究課題に即して説明するならば、本書では、まず封じ込めの提唱者であるケナンの経済中心、地域的にはヨーロッパと日本を重視する冷戦初期の政策が、ニッツェの手により、軍事優先で世界的規模での封じ込めへと変貌し、このニッツェ的路線が冷戦期の封じ込め路線の基調をなしたこと、次に、まもなく国務省を離れたケナンとは対照的に、ニソツェは歴代政権と関係を持ち、とくに1950年代後半、1970年代に対ソ脅威論とアメリカの軍備拡張論を喧伝することで、軍事的封じ込めの強化をめざしたことを検討した。本書は最後に、ニッツェ的な封じ込めの功罪について、批判的に再検討した。 平成22年3月中旬に行った議会図書館(ワシントンDC)で収集した史料(ケナン、ニッツェの国務省の同僚で、ソ連問題専門家であったC・ボーレン、L・ヘンダーソンの個人文書、元駐ソ大使ハリマンの個人文書)を『冷戦』の執筆に活かすことはできなかった。しかしこれらの史料は、本課題の研究をさらに深める上で大変有益である。
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