本研究の中心は、2012年APEC首脳会議開催予定のウラジオストクの開発をはじめとする、極東・東シベリア地域開発をめぐる状況を把握し、それが北東アジア地域秩序形成に与える影響を考察することである。本年度は、まず9月のウラジオストク出張などを通じてロシアの地域開発一般の動向と極東・東シベリア開発の進捗状況を把握した。昨年度来の金融危機の影響と国際エネルギー資源価格の下落により国家財政は収縮したが、極東・東シベリア開発は地政学・安全保障上の利害が深くかかわるものとして長期的な観点からその重要性が認識され、基本的な計画は縮小されなかった。APEC会議開催に向けたウラジオストク開発も、予定された建設対象の大部分は続行された。ただし、開催までのスケジュールはタイトであり、いまだに計画の変更が噂される。極東地域内への供給およびアジア太平洋地域への輸出を目的としたエネルギー資源関連施設の建設は着々と実施され、北東アジアのエネルギー資源協力の可能性を高めている。 他方、国内製造業の保護・育成を目的とした、外国車への高率の輸入関税導入により、住民の激しい抗議が生じ、また、住民の多くが中古自動車輸入関連業にたずさわっていた沿海地方における失業率増大がもたらされた。社会主義時代からその非効率性を克服できない巨大企業とその企業城下町の問題も、金融危機によって深刻化した。こうしたことから、特に沿海地方では自動車工場の誘致、韓国や中国・シンガポールの企業などとの合弁による造船所建設などが進められ、旧軍需企業の救済、雇用の増大などが目指された。 こうした状況を把握し、関連論文を執筆するとともに、今日のウラジオストク開発に至る歴史的経緯を簡潔にまとめ、『ウラジオストク-混迷と希望の20年』を2010年2月、東洋書店より出版し、研究成果を広く一般に周知させることを意図した。
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