ロシア極東地域開発に関する「(1)進捗状況」と「(2)方向性」に関して、本年度は特に2008年度後半以降の金融危機の中におけるロシアの地域政策全般の方向性及び極東開発とりわけその中心であるウラジオストク開発の実現性を考える上で重要な要因である地方政治の情勢を中心に研究を行った。ロシアの地域政策の方向性を示す文書である「ロシア連邦地域政策の完全化のコンセプト」の草案からは、極東地域のような後進地域への支援を強化し、地域発展の「平準化」を目指す方向性をもっていることがわかる。そのため、金融危機の状況下においても、極東開発は国家的な優先課題としてほぼ当初の予定通りに予算が割り当てられている。また連邦政府の地域政策には、地域開発における連邦構成主体首長の責任をより高める方向性がみられる。特に沿海地方では、2012年APEC開催に向けたインフラプロジェクトを首尾よく実現したい中央の考慮もあり、極東開発に関する国家委員会や地域発展相、全権代表部などを軸とする連邦主導の開発体制が構築される一方で、地方レベルでは現存の政治構造が維持された。ただし、沿海地方におけるこの権力構造は、統治上の不安定要因も抱えており、中長期的には変化していく可能性もある。本年度はさらに「(3)周辺諸国との関係」に関して、極東開発の成否に関わる重要な要因として、エネルギー資源をめぐるロシアと東アジア諸国との多国間協力が成立するかどうかについて予備的な考察を行った。これに関して、現状では各国の「エネルギー資源確保」の欲求の強さや相互不信の強さなどにより協力が困難であるが、多国間協力の成立に向けて各国の利害が一致する合理的な根拠と現実的な条件が存在しており、また省エネ・環境面等での協力の進展が、多国間協力の進展を促す可能性をもっていることなどを指摘した。
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