本研究の目的は、セルビアからのコソボ独立問題とグルジアからの南オセチア・アブハジア独立問題という二つの紛争事例を詳細に調査し、共通性と差異を浮き彫りにしながら、両者の間の相互作用にも注目して、今後の国際政治に与える影響を精査・分析することである。より具体的には、(1)紛争の背景、(2)紛争の推移、(3)国際関係と国際関係主体に対する影響、の3点について、現地調査も踏まえて比較分析を進めていくことを目的としている。平成21年度は、紛争の歴史的経緯と現状の把握を目的とし、二つの事例についての資料収集を行うと同時に、多くの研究協力者から専門的な知識を得ることを試みた。伊東は全体の統括にあたるとともに、ケント大学のBieber博士、元UNMIK職員の茂野玲博士などを招聘して国際ワークショップを合計3回実施し、コソボとグルジアに関する第一人者からの情報提供を得ることができた。研究分担者の久保は平成21年度にセルビアとコソボにおいて現地調査を実施し、多くの資料を収集すると同時に、政治家や官僚、研究者等多くの要人に聞き取り調査を行った。同じく研究分担者の前田は、グルジアに関する書籍等の収集に努めたほか、グルジアからサニキゼ教授を招聘し、現地情勢に関する専門的知識の提供を受け、研究会を開催してその知見を日本の多くの研究者と共有した。これらの活動を通じて、セルビアとグルジアの比較分析のために必要な基礎的資料を整備することができた。これらの基礎的資料は、平成22年度以降に本研究計画において進められる体系的・総合的な比較分析にとって不可欠の資料となるであろう。
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