くり返しゲームに関しては、私的観測の下で頑強性をもつ均衡を構成するやや強い十分条件を、weakly belief free均衡として定式化するプロジェクトが最終段階を迎え、投稿中の論文の最終改訂が終わり、23年度に国際的に最も権威ある学術雑誌Econometricaに掲載が決まった。また、頑強性をもつ均衡を極めて一般的に特定化する手法をUCLAの小原教授と協力して開発し、これを複数の国際学会において招待講演のかたちで発表した。この方法は、POMDPと呼ばれる動的計画法の計算論的アプローチと深い関係があり、これを専門に研究している人工知能・計算機科学の研究者と学際的な研究交流を行うことにより、一層の応用範囲の拡張を試みた。具体的には、九州大学の人工知能の専門家である横尾真教授との研究交流をおこない、小原氏と開発した私的観測下のくり返しゲームにおいて頑強性をもつ均衡を見つけ出す計算アルゴリズムを計算機に実装し、均衡を計算機によって見つけ出すプロジェクトを開始した。このため、研究代表者は小原氏とともに九州大学を訪問し、あらたなプロジェクトの準備を整えた(この部分が東日本大震災のため繰越となり、平成23年7月に完了した。) また、戦略の改訂を通じた協調の可能性については、ハーバード大学の鎌田氏と共同で、主に価格競争や選挙戦に対する応用を完成させた。さらに、前年度まではやや直感的に議論されていた最適戦略の存在とその本質的な一意性について、理論的に厳密な証明を与えることに成功した。これらを加えて、論文をさらに改訂中である。 マーケットデザインとマッチングについては、戦略的補完性のあるゲームとの理論研究をまとめるための作業にはいり、これまで得られたさまざまな結果を整理している段階である。
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