研究課題/領域番号 |
21530165
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神取 道宏 東京大学, 大学院・経済学研究科, 教授 (10242132)
|
キーワード | ゲーム理論 / くり返しゲーム / マッチング理論 / 実験経済学 |
研究概要 |
「長期的関係においては、利己的な主体間でも協調が達成できる」という事実を示すくり返しゲームの理論の研究において、お互いの行動が完全には観測できず、しかも各人がお互いの行動についてばらばらな情報を得る場合については、どれほどの協調が達成可能であるかはいまだに不完全にしか分かっていなかった。この課題について、Weakly belief-free均衡という、既存の研究を拡張するクラスの均衡の特徴づけに成功し、もっとも権威ある国際学会誌であるEconometricaに掲載された。また、おなじモデルにおいて、各人が均衡に従う強いインセンティブをもつより頑強な均衡を、部分観測マルコフ過程の理論を応用して構築する一般手法を開発し、計算機科学の研究者の協力を得てこれを計算機に実装して均衡の特定化を行う作業に着手した。 さらに、くり返しゲームと同様のロジックで協調を達成する、revision gamesというモデルを提唱し、対称的な場合の研究成果を得ていたが、これを非対称的な場合に拡張する目処がついた。 さらに、ゲーム理翰と現実の人間の行動の関係を調べるために、第一価格封印入札において、チームを組んで入札額を決める場合の人間行動について、実験を行った。その結果、チームを組んで入札することにより、いわゆるオーバービッディングがある程度抑倒されることが観察された。また、理論と現実の人間行動の関係について、ストックホルムと北京の国際学会で招待講演を行った。後者は世界各国の経済学会を包括する上位組織であるInternational Economic Associationの世界大会である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究成果の一つがもっとも権威ある国際学会誌Econometricaに掲載されたのは大きな収穫である。さらに、世界各国の経済学会を包括する上位組織であるInternational Economic Associationの世界大会での、少数の招待講演者に選ばれたのも大きな成果である。研究面では、部分観測マルコフ過程を使った私的観測下のくり返しゲームの理論がほぼ完成すると同時に、計算機科学の研究者と領域横断的な研究交流をおこない、理論をプログラムの形で計算機に実装し、均衡分析を可能にするという、本研究課題申請時には予想しなかった大きな進展が得られた。この件にかんする成果は、経済学と計算機科学の両方に向けて発信する予定であり、真の意味での「文理融合」を達成することが出来る見込みである。また、いままで経験の無かった実験の計画と実行を遂行できたのも、本プロジェクトの大きな進展である。
|
今後の研究の推進方策 |
長期的関係においてお互いの行動が完全には観測できず、しかも各人がお互いの行動についてばらばらな情報を得る場合を分析する「私的観測下のくり返しゲーム」において、各人が均衡に従う強い誘因をもつような頑強な均衡を一般的に構成する方法は従来知られていなかったが、これを与える一般理論を部分観測マルコフ過程の理論を応用して構築する。前年度までの研究の進展を受け、今年度にはこの一般理論編を纏め上げる作業に入る。また、この一般理論編を計算機に実装し、具体的な均衡を構成する作業を一層進展させ、これをまとめる段階に持ってゆきたい。 また、くり返しゲームと同様の論理を使って、戦略の改訂を通じて協調が達成できる可能性をrevision gamesという枠組みで明らかにする研究を一層進展させる。具体的には、戦略改訂の機会がすべてのプレイヤーに同時に訪れるケースが理論的に扱いやすいので、まずこのケースについての分析を纏め上げ、次により現実的な、各プレイヤーに戦略改訂の機会がぢ独立に訪れるケースの分析を行う。その一般理論を構築する前段階として、分析が比較的容易な利得関数が加算分離的な場合について取り扱い諭文にまとめる。 マーケットデザインとマッチングに関しては、安定なマッチングあ集合が数学的には束の構造をもつことを、戦略的補完性のある非協力ゲームとの関連で理論的に明らかにする諭文を最終的にまとめたい。また、「参加者が類似した好みを持つ場合に、安定マッチング集合が小さくなる」という推測を諭証する試みも、まとめの段階に持ってゆきたい。 行動経済学分野では、実際の人間行動がどのようなときに経済理諭・ゲーム理論の予測と近くなるかということを、特にオークションの文脈で検証する実験を行う予定である。すでに前年度に1回の実験を行ったので、これを受け手されなる迫試あるいは実験デザインの改善などを含め、研究を進展させてゆく予定である。 以上のような研究を進めるため、海外の研究者を含めた研究者との連携のため国内外への出張、研究者の招聘を予定する。また、研究成果の中間・最終報告のため、国内外の学界、研究会への参加を引き続き行う予定である。
|