長期的関係において各人がお互いの行動についてばらばらな情報を得る場合を分析する「私的観測下のくり返しゲーム」において、均衡に従う強い誘因をもつような頑強な均衡を一般的に構成する方法は従来知られていなかったが、これを与える一般理論を部分観測マルコフ過程の理論を応用して構築する研究の一般基礎理論が、初期の相関均衡シグナル分布の存在の部分を除いてほぼ完成した。また、この一般理論編を計算機に実装し、具体的な均衡を構成する作業を行った。 また、くり返しゲームと同様の論理を使って、戦略の改訂を通じて協調が達成できる可能性を revision gamesという枠組みで明らかにする研究を行った。具体亭には、戦略改訂の機会がすべてのプレイヤーに同時に訪れるケースが理論的に扱いやすいので、まずこのケースについての分析をまとめた。次により現実的な、各プレイヤーに戦略改訂の機会が独立に訪れるケースの分析を行い、分析が比較的容易な利得関数が加算分離的な場合については最適制御理論が有用なことを発見した。 マーケットデザインとマッチングに関しては、安定なマッチングの集合が数学的には束の構造をもつことを、戦略的補完性のある非協力ゲームとの関連で理論的に明らかにする研究を進め、「オーバーブッキングを許す」「最適反応対応のselection」を考えることの二つが鍵となることをつきとめた。 行動経済学分野では、話し合いを通じて最適な戦略を相談する機会をあたえると、ゲーム理論の予測と近くなるかということを、特にオークションの文脈で検証する追試をおこなった。話し合いの効果は実験により異なることがわかり、顕著な効果をあげる要因はなにかを発見するという新たな課題が浮かび上がった。 以上のような研究成果を海外の研究会で発表するとともに、方法論的洞察をまとめた論文を研究書の一部として刊行した。
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