研究概要 |
経済取引にはモラルハザードがつきものである.歴史的にその対処は,小さな共同体内での顔の見える繰り返し取引から始まり,規模の拡大につれて国家権力による契約や権利の履行強制によって発展してきた.グローバリズムとIT化により,取引の匿名性や企業の参入退出の自由度や国境を超えた取引の割合が高まり,伝統的な契約強制システムに代わる新たなインフラの重要性が増してきている.我々はその新たなインフラの役割を信頼関係と社会規範が果たす可能性に着目する.約束が履行されるのは信頼・信用を失うという規律付けがあるからで,社会的評判が重要な社会ならば規律付けは十分に機能する.このような規律付けが,プレイヤーが自由に参入・退出できる状況でも成立するのか,するとしたらどのような形を取るのか,を主に進化ゲーム理論の観点から分析するのが本研究の目的である. 今年度は協力と非協力の2戦略からなる均衡の効率性・安定性についての考察を中心に行った.その結果,この2戦略均衡は協力戦略を含む2戦略分布の中で最も効率的であり,協力の便益が十分に大きい場合には信頼構築戦略均衡よりも効率的になることが示された.また,複数の戦略の侵入を考えた場合,割引因子が十分に大きい場合にはこの2戦略均衡がある種の安定性を持つこともわかった.
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