製品差別化された一般N企業の寡占モデルを構築し、各企業が価格戦略(ベルトラン競争)をとった場合と数量戦略(クールノー競争)をとった場合の最適数量、最適価格、最適利潤を比較し、複占市場で成立する「ベルトラン競争企業はクールノー企業よりも競争的である」との命題がN企業寡占市場で成立するかを考察し、以下の知見を得た。ただし、分析の単純化のために、線形の逆需要関数、固定費用のない線形の費用関数を仮定した。 1. 4企業以上の寡占市場はベルトラン競争でも、クールノー競争でも小域的に不安定になる。より詳しく述べると (1) 財が代替的であれば、企業数が大きく製品差別化の程度が小さいほどクールノー均衡点は小域的不安定になる。 (2) 財が補完的であれば、企業数が大きく製品差別化の程度が大きいほどベルトラン均衡点は小域的不安定になる。 2. 2企業複占市場で起きえない命題がN企業寡占市場で成立する。例えば「クールノー競争企業はベルトラン企業よりも競争的になり得る」 3. ただし上記2の結果はいずれも均衡点が小域的不安定である場合に成立するので、この結果の経済学的な含意を探るためにはさらに大域的な動学を考察する必要があり、次年度以降の研究課題である。 中間的な結果であるが、クールノー均衡点が不安定でベルトラン均衡が安定である場合の各企業の利潤比較を行うと、ある自然な制約のもとで(生産の非負条件と有限な労働力を考慮した生産の上限制約)不安定なクールノー競争はカオスを含む複雑な動学を生み出し、不安定な軌道に沿って求められる平均利潤は安定的なベルトラン利潤よりも大きくなることが確かめられた。これは不安定市場であっても長期的な観点からみればクールノー競争の優位陸を意味し興味ある結果と思われる。
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