グローバリゼーションと技術的進歩によって実現された地球的規模での市場の席巻は地球を狭くし、国境の意味をなくならせつつある。一方で、劣悪なガバナンスは少子化・高齢化による社会保障の劣化等の国内問題、武装対立、地球温暖化、低開発国の貧困といった国際的、地球的問題を悪化させつつある。適切な対応策を見つけ出すためには、人類の保護、生存、平和、共存、秩序の維持を要求する地球的公共性が必要である。こうした地球的公共性にも、公共財としての市場システムは重要な役割を果たす。市場は、私的所有権制度、警察、司法など市場を支える諸々のシステムとともに、市場システムを構成し、私的財の安定的、効率的供給を通じて公共善の増進を実現するが、他の制度が多くの面でそれをサポートする場合だけ、市場システムはよく機能することを示した。だが、市場が奨励する自由放任主義への反省から、行動経済学に代表される多様な立場が「新しい統治」へと合流し始めており、これが自由放任主義とは反対の極に振れないように、個人の選択がどのように位置づけられているのかも検討した。 その他、憲法学の立場から、制度や権利そして公共的なるものを検討した。プライバシー権やアクセス権がどのように公共性に奉仕し、どのような制度枠組みにおいて機能するかを考察した。さらに裁判所や司法権概念、裁判員法をめぐる諸問題についても、制度設計の観点から分析を加えた。また、新自由主義や、戦争・内乱後の和解の構築を政治哲学の立場から考察し、現代社会における公共性の再構築への理論的手がかりを獲得した。 理論的試みとして、多元的価値を反映する社会的判断基準を提示し、公理的に特徴付ける研究を新たに開始した。社会状態のどの領域においては非厚生主義的福祉指標・基準を適用すべきであり、どの領域では厚生主義的福祉指標・基準で判断すべきか、という問題を考える為の公理も提起した。
|