本研究課題の目的は、公共性の実現に対して今日の政治経済・法制度がどれだけ有効か、また有効であるために満たすべき性質は何かに答えることである。この課題に対して以下の研究成果を得た。 1)多様な価値観や自然的・社会的資産の異なる人々が集まって公共性を議論するために必要とされる公共的討論の条件を、原初状態と無知のヴェールに求め、社会契約的アプローチに基づく公共性や社会的正義の議論枠組みとして、それらを再構成・再解釈し、擁護する理論を提示した。 2)公共性の実現のために重要な働きをする市場は、様々な性質を持つ公共財と捉えられる。したがって、公共財としての市場はその成立・維持においてインセンティブ問題に直面せざるを得ない。市場を閾値のない公共財と見なすなら市場の効率的運用は人々の自発性からは導かれない。一方、市場を閾値のある公共財と見なすならば、特殊なケースで効率的となるが、一般にはそうならない。さらにその財源調達まで視野に入れると、効率性の達成はいっそう困難である。これらの点は市場の公共性に大きな問題を投げかけることになる。 3)公共性の重要な要素である機会の平等と社会的厚生の増大との関連をマルクス搾取理論の観点から考察し、労働搾取の経済学的指標化とその公理化を行った。厚生主義的一元主義を超えた多元的な福祉評価の理論的探究として、帰結の効率性と手続きの衡平性の双方を含む交渉ルールの公理体系を定式化し、その結果、ある種のナッシュ解のリファインメントを公理的に導出した。 4)憲法学の立場から、制度や権利そして公共的なるものを検討し、公共性の議論に追加すべきテーマとその分析枠組みについて再確認した。アメリカ合衆国における政権交代、表現の自由に関して検閲と事前抑制、裁判所制度と司法の優位などが追加テーマである。また、情報漏洩・管理問題に関する民主的統制を公共性の観点から考察を加えた。
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