研究概要 |
1.人間の数理的な活動の中で「極限再帰」という原理にしたがった計算が重要な役割を果たすことがある。これは離散構造上での一種の計算であり、各ステップは通常の意味で計算可能であり、あるステップから先は値(出力)が不変になることが保証されているときにその安定値を最終的な値として出力するものである。無限のステップが必要とされるので、実際に計算機で実行はできないが、理論的にはこのような計算過程あるいは関数を考えることになんら問題ない。問題はこのような過程を「計算」とみなせるか、みなせるとすればそれは何故か、ということである。 みなすかみなさないか、は個人あるいは目的によって異なる。肯定的立場をとる場合に、その認識論的根拠は何か、が問われる。そのための指標として「コンパクト」という概念を採用した。ここでは「コンパクト」は、事実上は複雑であったり無限であったりする操作や事象を簡潔で有限「的」に表現できる可能性あるいはそのように表現した結果をいう。今年度の成果は、ある種の記号的表現(計算設計と呼ぶ)が素朴な意味で極限再帰も含む計算過程を表現し、しかもあるコンパクトな表現がそれらの無限過程をも含む計算過程を反映していることを示した。 2.実験哲学の研究を深めた.人間の推論は,上記のような論理的側面だけでなく価値判断を含む.そして最近のKnobe Effectの研究は,客観的判断(行為が意図的であるか否か)と主観的判断(行為が社会に対して及ぼす効果の善悪)の分解についての直感が正しくないことを示唆している.これについての実験哲学の不十分な実験(被験者の動機づけが不明確)を実験経済学として厳密化する方法を開発し,次年度の実験実施の準備をした.
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