研究概要 |
企業間競争が激しさを増す中で,自社の支配権のもとでより高い成長が期待できる他企業を買収することは企業にとって重要な成長戦略のひとつである。企業買収をめぐる一連の既存研究では,被買収企業の株式を事前により多く保有することで買収企業の成功確率が高まる可能性が指摘されている。しかしながら,実際には公開企業の一定割合以上(通常5%)の株式を企業や個人投資家などが市場で取得した場合,株式取得目的などの情報を報告・開示しなければならない。今年度の研究ではそのような公開ルールを考慮に入れ,買収企業の買収戦略を分析した。被買収企業に対して買収企業が相対交渉をし,交渉が決裂した場合に公開買付が行われる標準的二段階買収プロセスを想定し,均衡における支配権の所在と買収企業による被買収企業の株式の事前保有割合を導出した。一定の条件のもとでは買収によって被買収企業の価値が高くなるほど買収は相対交渉によって成功しやすい。その場合,買収企業による被買収企業の株式の事前保有割合は公開ルールが定める閾値またはそれ以上になり,被買収企業の内部保有比率が低いほど大きくなる。また,被買収企業の内部保有比率別に分析すると,その比率が高いほど相対交渉による買収が成功しやすい。その場合,買収によって被買収企業の価値を上昇させる能力が高い買収企業のほうが,事前に保有する被買収企業の株式が少ない。また相対交渉による買収でのブロック・プレミアムについても分析し,特殊な条件のもとではディスカウント取引が生じる可能性を指摘した。これら一連の分析を論文"Toehold Strategy in Negotiated Transfer of Corporate Control under a Disclosure Rule"としてまとめ,海外の専門学術雑誌に投稿中である。
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