今年度遂行した具体的な研究計画は2つある。一つは、ケンブリッジ大学の初代経済学教授であるプライム(George Pryme)の経済学講義がいかなる影響のもとに形成されたのか、についてである(「研究計画調書」の「研究目標」の1に対応)。すでに海外で収集した資料をデータベース化し分析した結果(「交付申請書」の「研究実施計画」を参照)、1809年にエディンバラ大学で行われたステュアート(Dugald Stewart)の講義から非常に大きな影響を受けていることが明らかになったので、これをまとめ経済学史学会第73回全国大会で報告(裏面参照)した後、海外のリーディング・ジャーナルに投稿した。現在のところ、保留(acceptable with major revision)の扱いであるが、レフェリーからは、「これまで手つかずであった複数の一次資料を精査した意義ある研究」であることが認められる一方、「18世紀後半のケンブリッジでの経済学教育へ目配りを要する」との指摘があった。このため、次年度に予定していた海外での資料調査を前倒しし、2月にこれを行い、現在投稿原稿の改稿を行っているところである。 第二に、ケンブリッジ帰納主義者たちが指導したとされる1830年代の統計運動についてである(「研究計画調書」の「研究目標」の2に対応)。1820年代における経済学方法論の諸議論をサーベイすることによって、統計運動に先立って認識論上の転換が生じていたのではないかという仮説を形成し(「交付申請書」の「研究実施計画」を参照)、3月にシンポジウムで報告した(裏面参照)。今後、この仮説の検証をより十全なものとして、海外の学会で報告する予定である。
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