研究概要 |
平成23年度は、本研究の第三のフェーズにあたり、昨年度までに収集・解析した資料に基づいて、研究成果をまとめ,口頭発表を行い,論文を発表した。具体的には、ケンブリッジ大学の初代経済学部教授プライム(George Pryme)の講義内容を復元し、それとエディンバラ大学においてステュアート(Dugald Stewart)による経済学講義との関係を分析した結果を論文として発表すべく校正を行いつつ(すでに受理済み)、ここで展開された主題をさらに精緻化・発展させるよう努めた。成果のひとつは、ステュアートの経済学冒頭で展開された経済学方法論の議論が、ケンブリッジのみならず、当時のイングランドにおいて大きな影響力をもったことを示したことであり、これは北米の経済学史学会において、'From J.-B.Say to D.Stewart and J.R.McCulloch'として口頭にて報告された。第二に、同時代のケンブリッジ出身の経済学者としてもっとも重要なマルサス(Thomas Robert Malthus)もまた、18世紀以来のケンブリッジ道徳哲学内の経済論から多くの影響を受けていた可能性を見出したことであり、これについては「マルサス『初版人口論』-スコットランドおよびケンブリッジの伝統の関連において」とのタイトルで論文として発表された。これらは、18世紀末から19世紀中葉にかけてのケンブリッジにおける経済学を歴史的・総体的に理解するために、不可欠な知見を提供するものであるにもかかわらず、従来の研究史では比較的等閑に付されていた事柄であり、研究史上大きな意義を有するものである。
|