ケンブリッジ大学では、19世紀前半にイングランドの大学で初めて独立の経済学講義が行われたが、その前後の経緯は研究史上あまり知られていない。本研究は、こうした空白を埋めるべく、以下の三点を明らかにした。第一に、同大学には、18世紀以来の功利主義的道徳哲学の伝統があり、そのなかで、同時代にスコットランドで誕生した経済学とは趣を異にした経済論が展開されていたこと(その影響は19世紀まで残る)。第二に、同大学に導入された経済学は、上のような伝統に負いながらも、エディンバラ大学で展開された経済学の影響を圧倒的に受けたものであったこと。第三に、当時の正統派経済学に対する方法的批判で知られるいわゆる「ケンブリッジ帰納主義者たち」は、功利主義哲学にも上のように導入された経済学にも、対立する存在であったこと。以上である。
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